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TACOMA FUJI RECORDS Pancake Killa / son LS designed by Ryohei kazumi

¥ 9,350 税込
94 point

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  • WHITE

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SOLD OUT

サイズ
M 着丈 64 / 身巾 54 / 肩幅 44 / 袖丈 65
L 着丈 67 / 身巾 57 / 肩幅 47 / 袖丈 66
XL 着丈 70 / 身巾 60 / 肩幅 50 / 袖丈 67
モデル:180cm,68kg,XL着用
※加工によりサイズ感に若干の個体差がございます。上記サイズスペックは平均値を示しておりますので、予めご確認ください。

素材
コットン100%

カラー
WHITE


あれから久しく乗っていなかった電車に乗った。満員の時間帯だが、車内は余裕が見られる。
最近はディスプレイの前で殆ど解決してしまうので、生身の人間が乗り合う電車内がなんだか滑稽に見えた。
前に座る女性の鞄に猿のキーホルダーがついている。こんなどうでもいいことに目が向いてしまう。
仕事のミーティングを会ってしたいと言われ、リモートで良いじゃないかと思ったが、年配の依頼主は頑なだった。
くたびれた喫茶店で待ち合わせ、依頼を受けてそそくさと退散する。
なんてことない内容だったが、依頼主のネクタイがチンパンジーの柄で、お茶目ですねと、つい言ってしまった。
嬉しそうに微笑むと孫からプレゼントされたと教えてくれた。
外出してみると世の中のどうでも良いことがいちいち気になって、狭い部屋の中で活動を疎かにしていた脳が騒ぎ出したのだった。
おかげで古い友人が脳裏に浮かび、閑散とした大通りで信号待ちの傍、笑みが溢れた。
モニカ・キラ。彼女との思い出が蘇る。

もう随分と昔になるが、私がZAAPS[1]というバンドと、仕事をしていた頃にモニカと出会った。
私たちが入り浸っていたバーの常連だった彼女は、長年勤めていた探偵事務所を辞め、休職中の飲んだくれだった。
モニカは大学卒業後、弁護士事務所でパラリーガル[2]として働き出し、優秀ではあったが、デスクワークに満足できず、数年で退社し、その後は探偵事務所の調査員として勤務するようになったそうだ。
バーで会えばそんな身の上話をして、私たちは直ぐに打ち解けた。
辞めたとはいえ、仕事内容をベラベラと喋る、およそ守秘義務を守る気のない声のデカい女性。
それが彼女に抱いた私の第一印象だった。
とはいえ、話の組み立て方が巧みで頭の回転が恐ろしく早く、一度話した内容を忘れることはなかったし、するりと人の懐に入り込む愛嬌から、彼女が優秀な調査員であったというのは確かだった。
モニカが語ったエピソードの中で最も印象深い話が、大富豪のペットであるチンパンジーのクロノスくんを巡る騒動についてだった。
クロノスくんは5歳のオスで、ある日、忽然と姿を消し、捜索届を出すも見つからず、身代金目当ての誘拐の要求が来ることもなかった。
全くの音沙汰なしに打つ手がなくなり、モニカの探偵事務所に捜索依頼が舞い込んできたのだった。
クロノスくんは家族同然で大層大事にされ、主人や使用人にも懐いていたことから、身内の犯行に焦点を絞り調査した結果、クロノスくんを愛してしまった世話係の女性、レィア・オルドアが犯人であることが発覚する。
クロノスくんはレィアの家で健康な状態のまま無事発見され、誘拐事件としてレィアは逮捕された。しかし、事件はここで終わらなかった。
なんとレィアはクロノスくんの精子と自分の卵子を人工授精させ、受精卵を自分の子宮で育てていたことが発覚した。
チンパンジーのオスは歳を取るごとに気性が荒くなり、人を襲うこともあるそうだ。[3]
人間同様、チンパンジーは同族殺しを行う。
クロノスくんも使用人たちに怪我を負わせることがあったそうで、施設での飼育を考えざるを得ない状況へと進みつつあったことから、クロノスくんを深く愛し、離れたくないレィアが犯行に及んだのではないかと回想していた。
モニカは酔いが回るとこの話を何度もした。いつもしみじみと忘れてしまわないように。
しかし、レィアとクロノスくん、そしてお腹の子がどうなったか、その結末については結局教えてはくれなかった。
貯金を食いつぶし、いつまでも酒浸りでいる彼女にZAAPSのエオが音楽を勧めたのはいつのことだったか。
のせられた彼女はどこからかギターを調達してきてカントリーミュージックを始めた。
そこからトントン拍子で話は進み、Pancake Killaと名乗ってバーで演奏することもあった。
常連たちは面白がってモニカに出資し、4曲入りのミニアルバムを作ったのだった。
バンドには私も参加させられたのを覚えている。
Pancake Killa のデビューミニアルバム『son』は、今も私の手元にある。
CD-Rには手書きのタイトルと、ZAAPSのオアが撮影したバーで戯けるモニカたちの写真にSonのタイトルがかぶった写真がアートワークとして差し込まれている。

Pancake Killa / Son
1.Blue sky
2.Witchcraft
3.Son
4.Afterlife

アルバムが完成した日、バーで常連たちに嬉しそうにアルバムをプレゼントしていた彼女が、探偵業を辞めたのはクロノスくん事件が元であることを教えてくれた。
モニカと会ったのはそれが最後だった。
Pancake Killaの名をそれから聞くことはなかった。
それっきり音楽もやめてしまったのだろうか。
移気な彼女は今、何処で何をしているのだろう。
今日、外に出なければモニカについて思い出すこともなかった。
帰りの電車は相変わらずがらんとしている。
車窓から宇宙服を着たチンパンジーの野外広告がビルの隙間に現れて消えていった。
text by Takaaki Akaishi

[1]ZAAPSはエオとオアの二人組ガールズバンド。ツインドラムという変則的なスタイルで活動。
セカンドアルバム『Kiss Become Romantic』発売後に解散が発表された
[2]パラリーガル(paralegal)は、弁護士の監督の下で定型的・限定的な法律業務を遂行することによって弁護士の業務を補助する者
[3]合衆国、コネティカット州の個人宅で飼われていたチンパンジーが、飼主の友人の顔面を食い千切る事件が発生している

Ryohei Kazumi 数見 亮平

1984年東京生まれ。アーティスト。
絵画や版画など様々なメディアによる作品や、zine、オリジナルグッズなども制作。
架空のミュージアムショップことENTERTAINMENTを主催。

Takaaki Akaishi 赤石 隆明

1985年静岡生まれ。アーティスト。
写真を媒材に立体や展示空間へと展開させ、作品を次々とアップデートしていくなど写真というメディアに対して挑戦的に取り組む。
TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD (2012) グランプリや「あいちトリエナーレ2016」などに参加。

【TACOMA FUJI RECORDS / タコマフジレコード】
TACOMA FUJI RECORDSは、良質な音楽の紹介を目的としたレーベル。
が、その実態はクリエイターがデザインやディスコグラフィーまでもを創造した「実在しない音楽」のマーチャンダイズをプロダクト化するレーベル。
なので当然音楽が売っていない。

だが、その一方ではレーベルの趣旨とは関係なく実在する国内外のグラフィック・デザイナーやアーティストのTシャツを突然リリースしたり、実在するミュージシャンのグッズの企画、製造、プロデュース等も行っている。