別注

日本がヴィンテージブームに沸く直前の1989年に創業、一攫千金アメリカンドリームに湧いたアメリカ東部の金鉱夫たちが、西へ西へと目指した時の合い言葉「GO WEST!!」にちなんだブランドネームを冠した国産デニムブランド【GOWEST】。
ヘンプコットン・ヘンプデニムなど、HEMP(大麻)素材を使用し、人や環境に優しい服作りをめざす【GOHEMP】。
今季(取材当時:2018年12月)それぞれ30周年、25周年を迎え、そのデザインセンスがますます冴えわたる、“デニム”への造詣が深い老舗2ブランドへ別注を依頼したエクスクルーシブモデルについて、Brownfloorバイヤーの萩生田が公私とも親交のある【GOWEST】/【GOHEMP】営業企画の小川さんとの対談です。

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別注ってよくやってます?

例えばGOHEMPのオリジナルのTシャツボディに、ディーラーさんのロゴ入れたりとか、ディーラーさんまわりのアーティストのデザインをプリントしたりみたいな別注は多いですけど。
布帛(※)だったり、そういったもので別注っていうのはあんまりないです。

※ 布帛…織機で織られた生地のこと。

他のブランドさんでも別注をさせてもらったりするんですけど、例えばシーズンごとにテーマがあってすごい考えられた上で展開しているのに、あれこれできますかっていうのは失礼じゃないかな?って考えながらお願いしているつもりなんですよね。
頼んでおいて何なんですが。笑

GOWESTはブランドコンセプトがあった上でシーズンごとにテーマをもってやってますけど、GOHEMPはシーズンごとのテーマは特に決めてないんですよね。
決めてないというか決められないというか。
ヘンプを使って着心地、機能美を追求したウェアを提案していくっていうブランドコンセプト自体、奥が深くって。
うまいこと言うと、奥が深くて自由度が高いって感じ。
たぶんそういう自由度の高さというか、そういった空気が漂っているのを萩生田さんは無意識に日々感じてもらってたのかもしれないですね。

なるほど。
別注とはいえ、テーマに沿わないとダメだって思わずに済んだのかもしれませんね。自分のことだけど。笑

そう。もしかしたら、いま言ってくれたみたいに、尊重はすごいしてくれてはいたんだろうけど、その中でもちょっとゆるい雰囲気というか、隙間が作れてたのかもしれないですね。GOHEMPでいうと。

別注

あとは「なんかやりたいよね」ってお話はもともといただいてましたからね。
ハーベスターパンツのあの形は初めチノだったかな?

そうですね。オリジナル生地のヘンプコットンのバックサテンでしたね。

形がすごい良くって。
展示会で「めっちゃ良いのできました!穿いてくださいよ!」って言われて穿かされた記憶があって。
周りにたくさん人もいるし、別に穿きたくもないのに。笑

そうですね。笑
ショールームに試着室があるわけじゃないからパンツを展示会で穿いてもらうってなかなかハードル高いんですけど、やっぱりどうしてもシルエットを萩生田さんにみてもらいたかったっていう。

ハーベスターと、あとルーズテーパードも絶対穿いてくださいって。

そうですね。穿いてもらいましたね、無理やり。着てる服を剥ぎ取る感じで。笑

でも、おかげでですよ。(ハーベスター)穿いたらやっぱりすごい良くって、形が。
で、「デニムとかでできないんですか?」って聞いたら「できますよ」ってなって。
ヘンプだとどうしても(価格が)高くなるっていうのは分かってたから、もともとうちで調子のよかったクライミングトラウザーズの生地でお願いしたら「やってみましょうか」ってなって。
わりとその場その場ですよね。ああいうのって。

そうですね。

別注

で、サンプルあげていただいて。もう3年ぐらい前かな?(取材当時:2018年12月)

うん。すっごい前。

そう。すっごい前。
でも、別注でこうやって繰り返して、今も定番別注みたいにさせてもらっていて、ぼくらはすごいありがたいんですけど、迷惑かけてないです?

全然問題ないどころか、嬉しいですよ。
ブラウンフロアさんは当初からシーズンとかトレンドに特化したものじゃなくて、定番のもので別注したいなっていうのがありましたよね。

そうですね。

やっぱり当時から消費社会全体で「餅は餅屋」的な空気がちょっと漂ってたというか。
今でこそもうそういう空気がカチッとできあがってますけど、3年前とかはまだ漂うぐらいの感じだったと思うんですよね。
そういう漂っていたものを萩生田さんは感じて、餅は餅屋の発想で、デニムをうちに任せてくれたのかなぁと思いますけどね。

結果、すごく良くて。今や加工も増やしてもらって。
ちなみにハーベスターへの思い入れってあります?

もちろん。
後に別注させてもらうベンダーパンツって両方に大きいポケットがついてるパンツあるじゃないですか。
もちろんあれもGOHEMPで重要なキーアイテムではあるんですけど、いわゆるギミックがあるパンツじゃないですか。

そうですね。

他にもギミックがあるパンツをいろいろ作ってて、お陰さまでどれも好評で。
ただその時、シンプルなパンツで、ものの完成度としても実績としても「コレ!」っていうのがなかなかできていなくて。
それが気になるところだったんですよね。
そんな中完成させたハーベスターパンツは、自分たちも納得できて、ディーラーさん、ユーザーさんにも受け入れてもらえたパンツっていうところで思い入れはありますね。

別注

なるほど。
ディテールでいうと、ハーベスターの裾のロールアップって仮止めされてるじゃないですか、あらかじめ。
あれってどういう提案だったんですか?

出したシーズンが秋冬の時期なんですね。
シルエット的には九分丈ぐらいが本当はブランドとして提案したいレングスだったんですけど、当時全国各地にいるディーラーさんからすると秋冬で九分丈ってどうなの?って思う人もいるかなって。
それもあって仮縫いというか、解いてもらったらフルレングスになりますよって。
なのでそこはわりと見た目のこだわりというよりは、万人に受け入れてもらいたい、間口をなるべく広げたいっていうデザインがされてる箇所ですね。
ただ今は九分丈ぐらいの感じが好まれているので。もう最初から短くしてしまってもいいのかなって。
ハーベスターも次の進化じゃないですけど、そういうのはありますけどね。
けど当時はやっぱりそういう感じだったので。

そうですね、たしかに。すごい形の良いイージーパンツというか。

そうですね。そういう感じですね。

自分からしたら当時すごく珍しく感じられて、でもGOHEMPではインラインの生地自体がほぼ特注だから、色別注っていうのがなかなかできないじゃないですか。
だから、GOHEMPのパターンにGOWESTの生地をのせてGOWESTとしてのアイテムでっていうのはどうですか?って話自体は小川さんからあった気が。

そうですね。 GOWESTとGOHEMPは明確にコンセプトの違いもあるんですけど、長くやっていく間でトレンドの移り変わりもあれば、年4回新しいコレクションを作ってく中で、近くなる部分もあれば離れる時期もあったりとか、そういうのを繰り返してしまうと、どうしてもユーザーさんにはGOWESTとGOHEMPのコンセプトの違いみたいなところまではなかなか行き届かなかったりするんで。
逆にそこで別注で、ブラウンフロアさんがGOHEMPのパンツのディテールを盛り込んだGOWESTの商品ですよってやってもらえば、「あれ?そもそもGOWESTとGOHEMPってどう違うんだっけ?」ってところに目をつけてくれるかなぁっていう狙いもありましたね。
あえてややこしいことをやることで、ブランドの違いをそれを機会に改めて説明しちゃう。認知してもらうっていう。
ただブランドを混ぜるのをこちら発信としてやるっていうのはちょっとどうなのかなっていうのもあったので、それをお世話になってるディーラーさんにやってもらえるっていうのは大きかったと思いますね。

悪い意味じゃなく、ライトなユーザーさんだと、GOWESTとGOHEMPって同じだと思ってる人もきっといらっしゃいますよね。
【GOWEST/GOHEMP】っていうブランドだと思ってる人も多分いる。

そうですね。
実際、ライトなユーザーさん以外でもまだまだそういう方は多いのかなっていうのは僕の中であって。
そのへんはわりと俯瞰してちゃんと感じるようにして、きちんと訴えかけるようなものづくりを今後より強めていけたらっていうのはありますね。

ぼくらもその一役に買ってるといいな。なんて。

ほんとそう。ありがとうございます。
もちろん小回りが効くっていうものづくりの理由もありますけど、かっこよく言うと「ブランドを横断する」っていう意味もありました。
数に縛りのあるヘンプの別注じゃなくて、GOWESTでやるっていうところはいろんな意味合いがありましたけど。
あと、ブラウンフロアさんとの別注のデビュー作になるわけなので、いろんな人の手にとってもらえるようなものにしたいっていうのはありましたよね。
ヘンプは高級な繊維なので、初回に関してはもう少し敷居を下げたいっていうか。
安いのが正義とは思わないですけど、ある程度納得のいくものが、ほどよい価格でできたらいいなというのもあったんで。
そう考えるとGOHEMPのプロダクトをGOWESTでやるっていうことはいろんな意味合いがありましたよね。

別注

『HARVESTER PANTS / 10oz STRETCH DENIM』
左から、アイスウォッシュ / ダーク・インディゴ / ユーズドウォッシュ

そうですね。
あとは、今でこそ加工2色もやらせてもらってますけど、それこそ加工を依頼したときの話覚えてます?

もともとクライミングトラウザーズで昔やった加工を萩生田さんがずっと記憶にとどめてくれていて。
それをハーベスターに落とし込んだっていう。

そう。色を落としたのもほしいので、あの「ユーズドウォッシュ」でお願いしますと。
で、サンプルあがってきたらそれよりめっちゃ薄くて。笑

せやった?笑

いや本当に!笑 今でいうアイスウォッシュがあがってきたんですよ。
で、これ違う!と。
クライミングトラウザーズのユーズドウォッシュで、もう少し暗い色のイメージだったから、「ちょっとこれ違うんですけど!」ってなって。

あった。それあった。笑

でも小川さん、「これもいいですよ!」って言ってて。
たしかにそれはそれで良かったんですけど、「でもおれ、ユーズドウォッシュって言ったしなー…もう一回お願いします!」みたいな。笑
で、3本並んだ時に全部表情が違って、けっきょく加工2色展開。笑

せやった。笑

ダークインディゴ含め全3本になったのは偶然の産物。笑

そうですね。

別注

アイスウォッシュのあの色感ってけっこう西海岸の匂いがするから、いろいろ外れすぎてないかちょっと不安でしたけどね。

たしかに、似たような加工を前にやったのはクライミングパンツだったからギャップがあってよかったものの、ハーベスターみたいなシルエットが綺麗なパンツになると、萩生田さんが今言ったみたいなちょっと海のカルチャーを感じさせるような色の落ち方で。

ひとつ間違えたらチャラく見えちゃうような。

うん。 まんま過ぎるかもなって。

そう。だからちょっと違うかなーとも思いつつ…
でもいざスタート切ったら、おかげさまでアイスウォッシュも問題なくユーザーさんに受け入れてもらって。
けっきょく3本やってよかったね、みたいな。こうやって偶然で進むことも多いですよね。

そうですね。ブランドの商品もそういう流れがなくはないですね。笑

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『VENDOR ANKLE CUT PANTS / 10oz H/C STRETCH DENIM』
左から、ユーズドウォッシュ / ワンウォッシュ

別注というか、ぼくらみたいなわがままを言ってくるような、例えば「生地をこっちにしてくれ」とかっていうような話ってあまりないんですよね?

「生地をこっちにしてくれ」は時々ありますけど、それこそベンダーアンクルカットパンツみたいな、ディテールをいじるようなのはなかなか…

ブランドの定番に対して、あれってすごい失礼でしたよね…

そんなことないですよ。
ただベンダーのディテールをいじるっていうのは、今まで別注であったか?なかったか?ぐらいの珍しい感じですね。
ディテールを少し変えるってだけの話でも、そもそもどれぐらいのロットがいるかとか、「生地ってどういうふうに段取ってるの?」みたいなところって、ものづくりの流れがわかってる方じゃないと普通はまったく想像も及ばないと思うので、やっぱりバイヤーさんからそういう話はなかなか出てこないですよね。
ただ、萩生田さんとはある程度そういった生産背景の話みたいなのをしやすい仲にあったっていうのもありますし、やっぱり関係性ありきだったのかなって思います。
仲が良い悪いっていうのではなく、違う形の関係性。
普段企画もされてる萩生田さんだからこそ、他のバイヤーさんとは違う関わり合いを持てて、実現できたのかなって。
自分の中ではそういうイメージですね。

ちゃんと共通理解があって。

そうですね。そういう感じのほうが大きいですね。

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ちょうど今アンクルカットの話になりましたけど、あれはノリじゃなかったですもんね。
なんかできないかって話してましたよね。「もう一発打ちたいよね」って話で。

そう。さっきも話しましたけど商品のうんちくを話した時に、納得するだけじゃなくて、その生産背景に関わる話だったりを萩生田さんは振ってきてくれる方なんで、話は膨らみやすいですよね。

どうしてもヘンプデニムで特別な何かをしたいっていうのがあって。

そうですね。僕ももちろんありましたね。

ただ、ブラウンフロアオリジナルのヘンプデニムを作るとなると、やっぱりすごい大きなロットになってしまうというか、制約がでかいと思ってたので。
通年展開しているGOHEMPのヘンプデニムを使って、もともとあるようなものというか、アイテムを何か少し変えられないかなっていうところに至ったのかな。
まあ、それでアンクルカットを提案してみたっていう感じだったんですけど。

うん。僕もそうですね。
たたき台になったベンダーリブパンツは思い入れもあるし、すごく好評なんですけど、個人的にはあの履き心地のままもっとコーディネートの幅を広げたいなっていうのがあって。
裾がリブっていうのは、諸刃の剣みたいなところはありますよね。

もちろん、中には裾にリブがあったほうがいいっていう方もいますからね。
お店で「アンクルカットできたんですよ」って言ってお見せするんですけど、リブパンのほうを買ってくれる方もいるから。

そうなんですよ。なので結局その打ち出しをブランド側からするのってちょっとトゥーマッチというか、同じような型で「リブだけとりました」ってややこしいというか。
結局、ものとしての違いは明確にあるし、全然別物なんだけど、ブランドで常にそれを2種類用意しとくかっていうと、それはちょっと違うのかなーっていうのがずっとあったので。
で、そのタイミングで萩生田さんも同じようなことを思ってたので、本当に「ホンマかいな!」みたいな。笑
恋愛の馴れ初めを聞いたときに、「どちらからともなくです」っていうやつ。
あれって「ホンマかいな!」と思うんですけど、本当にあのときはそういう感じだったんじゃないかな。笑
一応萩生田さんが言ってくれはしたんですけど、僕の中にもあったし。

そう。話し終わったあと小川くん、小森さん(GOWEST営業企画)とかに完全に「やってやったぜ!」みたいな感じだったからね。笑
「まぁいいや」みたいな感じで見てた。笑
で、一概にアンクルカットって言っても元型を何にするか。
別のクロップドのタイプから伸ばすイメージでもいけますけど、みたいな話もいただいていたんですけど、自分はベンダーリブのちょっと丸っこいシルエットが好きだから、そちらを指定をして。
裾幅の調整は難儀だった記憶がありますけどね。
やっぱりGOHEMPとしてはあんまりナローすぎるのも違うし、かと言って自分はベンダーリブのテーパード感も完全には無くしたくなかったし…
最終的にはうまく収めてもらったんですけど。

そうですね。

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それで仕上がった型に、冬期中のコレクションかな?ヘンプコーデュロイが当て込まれていて。
別注依頼した型にGOHEMPのインラインがのるっていうのはすごく嬉しかったというか。
良いのが仕上がったっていうふうに思っていただいてるんだなっていう感覚はなんとなくありましたけどね。

そう思ってもらえてるんだったらこちらも嬉しいですよね。
やっぱり別注でやったものをオリジナルのラインにのせてくっていうのは、ブランド側からするとルール違反的だよなって感じだったんで。

でもあれ、GOHEMPがずっとやってるディテールのパンツじゃないですか。
リブで提案してたものを取るって、気悪くしてないかなってやっぱり思いましたよ。

いやいや、それは全くないですよ。
さっきも言ったみたいに住み分けができれば、裾のリブをとるのは遅かれ早かれみたいなところはあったと思うんで。
ただ、じゃあどう差別化していくのかっていうのはやっぱり困ってたので、そのきっかけとしてはだいぶ大きかったです。
実際、次のコレクションを企画していて、時流もレングスの長さがキモになってきてるってなれば、もうあれ以外考えられなかったんですよね。
ただ、「やっぱりルール違反だしな〜申し訳ないな〜」っていうのと、「もうあれ以外ないな〜」っていうところのバランスで、まぁそこで関係性も活きたのか、腹割って萩生田さんに連絡して、オリジナルのラインに入れさせてもらいましたね。

でもちゃんとお互いに「こうしたい!」っていう強い気持ちをもった上で仕上がったものだったから、使ってもらえるというか、インラインに入れてもらえるようなシルエットだったんだなって思うとやっぱり嬉しかったですね。
…今後もなんかやりたいですよね。「やりたいですよね」なんてすごい簡単に言ったけど。笑
トップスで何か…

やりたいですね。やるしかないでしょう!

ってなるとやっぱデニムなのかな?って思っちゃうわけですよ。

想像が膨らみますね〜。

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