成長が早く、無農薬で育つ地球に優しい素材“ヘンプ”を使用した機能的で遊びの効いた服づくり。そして、ブラウンフロアにおいて古くからラインナップし、それでいて不動の人気ブランドとしての地位に君臨し続ける【GOHEMP】。ヘンプコットン・ヘンプデニム・ヘンプツイードなど、さまざまな生地を製作しています。肌触り・通気性がよく、紫外線を遮断するなど身体にもとても優しく、他の生地に比べ、素材の立体感や柔らかさも魅力のひとつ。ヘンプは無駄がなく、今の化石エネルギー(石油・石炭など)に変わるエコ資源とも言われています。今回はBrownfloorバイヤーの萩生田が【GOHEMP】代表の橋本さんにお話を伺ってきました。
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ではまず単刀直入に、【GOHEMP】スタートのきっかけって何だったのでしょうか?
【GOHEMP】っていうブランドで、ヘンプをみんなに知ってもらいたい。
ヘンプ=大麻っていう悪いイメージがあって、「え?麻薬?」みたいに思われるから、社内では麻っていう言葉を使ってるのね。
ただ麻って使うのも逆に…つい最近の話なんだけど誤解が生まれた感じがしてきて。
例えばこの前小川(【GOHEMP】営業企画)がアウトドアの営業に行って、ヘンプフェアをしてたブランドがあって、そこが綿麻とか麻、いわゆる普通の麻をヘンプって謳っていたらしくて。
リネンとかラミーと言わずに。
そう。だから大麻っていう表現が極悪な感じに聞こえるけど、逆に誤解を招くから、大麻って言わないといけないねっていう感じ。
うちがヘンプっていうことを謳って来年で25周年。
ヘンプっていうカテゴリーはうちのおかげかもしれないし、海外のおかげもあるかもわからないけど、どっちかっていうとヘンプはアパレルの繊維で成功してるイメージが強いんじゃないかな。
なるほど。
それを僕らも言い出して25年かかったから。
ここのところヘンプシードとかたまたま食のほうでスーパーフードが波に乗ってきて、ヘンプがわりと見直されているというか。
海外でもヘンプがああいった「食」の分野でそんなに長い歴史はないんだよね。
日本だと、みんな知ってるような七味唐辛子に入ってる麻の実とかを食べる文化があったんだけど、それをやっぱりプロテインにしたり、シードにしたり、オイルにしたり。
—うちの直営店の『JUZU』が14、5年やっていて。
ヘンプに特化した洋服屋さんで、【GOHEMP】の直営店ということでやっているんだけれど、ヘンプの作家さんだったり手作りのおもしろいブランドとかも入れてって状況でスタートしてね。
ヘンプの壁でお店を作ったの。
え、そうなんですか?
そうだよ。 「衣・食・住」にヘンプはいいんだよっていうのをテーマ的に打ち出したかったんだけどね。
で、「食」としてマルゴ(マルゴデリ)が隣に?
そう。それでJUZUは、まずは「衣」じゃない?
はい。
で、「住」は…壁ってふつうは塗っていくじゃない?
でもヘンプの壁は20cmぐらいの隙間を開けてベニヤ板を貼って、そこからずっとこう流し込む。
流し込む!?
どんどん流し込んで、1日経ってボンっと外したら地層みたいになってる。それで、10年ぐらいでやっと乾ききるっていう感じ。
『JUZU』はそういう壁になってるのね。もうずっとやってるから完全に乾ききっちゃったけど。
そんなふうになってるなんて知らなかったです…
最後にはがすんですね。
そうそう。最後にバーンって。
できてすぐはすごく空気がひんやりして、マイナスイオンで浄化されるみたいな感じ。
「衣・食・住」これでできたねっていうことで、ここでヘンプのマフィンだったり、ビスケットやバターとか。
さっきいただきました!すごくおいしかった。
うん。これがけっこう好評で、ヘンプのレシピ。
そういうものを作って、ヘンプを使った「衣・食・住」で攻めていこうということでね。
うちは『GOHEMP』が核となったブランドでやってるから。
なるほど。
ここ(マルゴデリ)の3階にもレンタルスペースのキッチンがあって、月に2、3回ワークショップをやってる。
オーガニックワインセミナーをやったり、映画上映会をやったり、ヘンプ味噌の仕込みとか。
ヘンプを中心とした食の安全を訴えていきたいってことで、いろんな先生を呼んだりしてるよ。
—それで、もともとヘンプのブランドをやり始めたということをたぶん聞かないといけないよね。笑
あ、そうですね。笑
もともと【GOWEST】(※)っていうブランドからうちの会社は始めていて。
4〜5年経って、アメカジ、レプリカっていうことに自分の中でちょっと疑問が出てきて…
リーバイスを完全にコピーすれば売れたって時代もあったけど、結局コピーはコピーだし、オリジナルがほしいなっていうのと。
あとぼくがずっと、もう学生時代からサーフィンが主流で、勉強もせずにサーフィンばっかりして、まあ今でも続けてるんだけど。笑
そういうので大手のサーフブランドで働いてたのね、最初は。
それで、ゴミがいっぱい海岸に流れてきたり、挙句の果てに防波堤とかテトラとかで景観が損なわれたり…
「なんでこんなところにテトラが来るの?」みたいな、やっぱり環境に対してすごく疑問が多かったのね、若い頃。
で 環境に携わるような洋服にしたいなぁっていうのがちょっと気持ちの中にはあったみたい。
あとはサーフィンはやってたけど、周りと同じようなかっこうで海には行きたくないなぁと。やっぱりおしゃれに行きたい。
それで環境のブランドにもしたいということで【GOHEMP】。
アクティブな洋服と、環境に優しい、人と地球に優しい服作りをテーマにやりだしたんだけどね。
だったらなんでヘンプがいいの?っていうことに多分なると思うんだけど…
年に3回収穫ができて、肥料も農薬もなくすくすく育って、天気もそんなに影響なくて。
そういうのって天然のオーガニックになるんじゃないかなぁってことでね。
※日本がヴィンテージブームに沸く直前の1989年に創業した国産の老舗ブランド。
「ART OF BLUE」を標榜し、ヴィンテージウェアの古き良きディテールを復刻し追求している。
ヘンプって年に3回も育てられるんですか?
そうそうそう。それだけ元気な素材。
やっぱり悪いイメージが先行してるから、なおさらぼくらはちゃんとした情報を発信していきたいなっていうふうには思ってるんだよ。
そういう意味でさっきの話に戻ると、【GOHEMP】はいろんな環境イベントとか、ちょっとでも環境に興味をもってもらうような役目のブランドとして出店してる。
なるほど。 ヘンプが洋服の素材として成り立ちやすいなって感じはあったんですか?
うーん、これは最近自分の中で整理したんだけど…
中国の生地屋さんの市場で、「大麻じゃんあるんだー」と思って、向こうのエージェントにこれでもの作りしたいって話をしたのね。
そこの社長が、「大麻?これは中国じゃ死んだ人が着る服だぞ」って言うわけ。
えー!
棺桶に入った人たちが着る服。
けどよくよく考えたら、防菌作用があったり、紫外線を避けたり、腐らなかったり、そういうことがやっぱりあって。
そのときはちょっとそれはどうなの?と思ったけど、よくよく考えたらそういうことからだったのね。
そういう意味ではその中国の社長が何気なく言ったその言葉ずっと忘れてないのね。
では、「衣・食・住」で提案していきたいという中で切り取ってしまって恐縮なのですが…「衣」の話を聞いてもいいですか?
【GOHEMP】の洋服を作るうえでのテーマみたいのはあったりします?
今シーズンこれ、来シーズンこれじゃなくて、うちはもう基本的な永遠のテーマが決まってるじゃない。
もうテーマが決まってるから、やることはわりとひとつなのよね。
基本的にアパレルではあるんだけど、アウトドア屋さんがちょっとそんな感じじゃない?
服の形はずーーっと同じだったり。色変えるぐらいで。新素材入ったらそれでやるくらい。
あのやり方がぼくはすごくいいなと思ってて。
もちろん、毎回毎回新しいデザイン出してパターン変えてやるって、それはそれでいいかもしれないけど。
例えばベンダーパンツがいいねって一度言われたらやっぱそれずっと続けたいじゃん。
「あれは去年のシーズンだったから今年はもうないよ」じゃなくて、いいものは続ける。
2、3年続けてそれでダメだったらやめて、その代わりひとつずつ新しいものを入れて。
それが残るか落ちるか、そういうもの作りだから、そんなに大変じゃない。
ものも好きだけど、生地が好きだからね。生地はもう100%デザインしてる。
この生地をベースに…みたいな?
そう。それをベースにヘンプを入れて、この柄をもうちょっと大きくして、とか小さくしてとか。
インディゴ染したりとか。
うん。デザイナーとしては気楽なことだけどね。
あとはもう営業企画で、こんなのがいいよとかね。
うちは人や地球に優しいブランドっていう永遠のテーマがあるから、その優しさが洗いを酢と塩にしようとか(ソルト&ビネガーウォッシュ)、なんかそういう従来のアパレルとはちょっと違う感じの動きだよね。
確かに。生地もほとんど全部が別注?
別注じゃないとないもん。
だってヘンプの生地ってそんなに…たまにあるけど、基本的に作んないとない。
じゃあ生地を作るときに、今はこんなのがいいなっていうのでやってるんですか?
そう。やっぱ今の空気感を表現したいよね。
で、ここんとこずっと続いてるのがインディゴだったり、日本の伝統のものをちょっとこう今風にアレンジしたり。
今は2020年(東京五輪)までに日本の良いものを復刻したいっていうのも。
日本の縄文時代の縄っていう文字はヘンプの編みの模様ってところから始まってると言われてるし、今回(2018-2019冬春)のうちのテーマでもあるお相撲さんのしめ縄なんかもヘンプで編まれてるっていう日本の伝統のことをちょっとずつでもアピールしたいなって。
前回は日本地図の中で麻の生産の産地を書いたり、もともとヘンプは日本には昔から生活とともにあったんだよっていうのを訴えたりね。
もちろん日本の若い子たちにも提案したいけど、海外からくる方たちにも日本の良いものを見てもらいたいってことでね。
しかもそれにヘンプが入ってるっていうと、ほかに絶対ないというか、オリジナルになるよね。
なるほどですね。おもしろいなあ。
じゃあ、ターゲットとか…決め打ちで「このぐらいの年齢の人に買ってほしい」とかで作ってるわけではないってことですよね。
そうじゃないね。
やっぱりこう、自然が好きだとか、環境にちょっと興味があったりとか、そういう人たちが多いから、わりとナチュラルな人たちが多いかな。
そもそものスタートが環境から始まっていて…でもブランドってふつうそうじゃないじゃないですか。
ある程度ターゲットやイメージがあったり。
そうだね。でもそっちのテーマでやると、やっぱりもうデザイナー系になるから。
ファッションを追いかけることに対して疲れが出てくるし、今の時代はかなり厳しいんじゃないかなあ。
よっぽどこう名前が売れたりとか何かしら裏テーマとか価値観とか芯がないと、今後ブランドは消えていってしまうと思うよ。
じゃあ来年(2019年)で25周年、「初めはこんな人が買っていたけど最近はこんな人も買ってくれる」っていうのはどうでしょう?
さっきも言った話だけど、やっぱり自然を愛する人たちがいちばん多いよね。
あんまりファッションに踊らされないような人たちが多かった。
あとはヘンプフード。フードのほうから、ヘンプって洋服もできるんだって意識で「食べ物もヘンプがいい、服もヘンプがいい」っていう人もちょっとずつだけど増えてきてる。
ぼくなんかもそうですけど、逆もありそうですよね。「衣」から「食」も。
お話をうかがっていて、実際いま興味ありますし…
そうそう、両方いるよね。
「食」から入って「衣」を知った人。「衣」から入って「食」を知った人。
そこの相乗効果。
では、あらためてお客さんに伝えたいことは?
言い方変だけど、「衣」も「食」もあんまり時代に流されずに、しっかりした目をもって、自己管理と自己判断のもとで見てほしいよね。
もうそれはうちの服がどうのこうのではなくてみんなに言えるメッセージ。
自分の管理のもと、自分の判断でものを決めていってほしい。
もちろん洋服もね。
うちもヘンプっていうことであんまりいいイメージがないものを一生懸命発信してるけど、今アメリカではヘンプが注目されていて、かつてのゴールドラッシュと被せて「グリーンラッシュ」って言われてる。
だからオファーがあったりで、【GOHEMP】も向こうで…っていうのも3年くらい前から動いてるんだけどね。(取材当時:2018年6月)
えー!ちょうど最後に今後の動きについて聞こうと思ってたんですが。笑
グリーンラッシュなんて言われてるんですか?
今回グリーンラッシュって帽子作ってるよ。笑
まあ、そういう話もちょっと出てきてる。
このお話、書いてもだいじょうぶです?
ああ、いいよ。
おかげさまできれいにまとまりました。笑
きょうはありがとうございます。ほんとうに。